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「ラウンドアップ」、WHO及び農薬のランニングマシン

21.05.15 Editorial
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320日イギリスの医療雑誌「ランセット腫瘍学」は、世界で最も幅広く使われている除草剤、モンサント社の「ラウンドアップ」に含まれる活性成分グリフォセートを「人体に対する発がん性の可能性あり」に分類した、世界保健機関(WHO)のがん研究国際機関(IACR)による報告書の概要を発表した。WHOはこの報告書で、長年農薬メーカーが支配してきた農薬が人々の健康とフードチェーンに及ぼす影響に関する独立調査の重要性を明確に認識している。そして食品の権利とより安全で健全な食料システムを推進するため、行動を推し進める重要な機会を与えている。

モンサントは直ちにこの報告書の信ぴょう性を非難したが、WHOと国の規制機関にロビィストを送り込んで攻撃した企業は他にもある。グリフォセートは約750品目の製品に使用されていて、昨年「ラウンドアップ」を50億ドル売り上げたモンサントが唯一のメーカーではない。実質上、大手の農薬企業の全てが、2000年に特許が切れて以降グリフォセートを含む製品を販売している。

WHOの報告書によれば、グリフォセートの使用は、モンサントが遺伝子操作でグリフォセートの抵抗力を高めた大豆、トウモロコシ、綿花、菜種(キャノーラ)そして甜菜などの生産が増加するのに合わせて飛躍的に拡大した。「ラウンドアップ」セット(除草剤と種子)の売り上げはモンサントの収益の約半分を占める。しかしグリフォセートは農林産業だけでなく、家庭菜園や公有地でも一般的な除草剤として広く使用されている。また乾燥穀物、豆類及び油料種子作物などの収穫前に使用され、遺伝子操作されていない作物にもかなり残留する。

大量のグリフォセートが農業に導入されたことで当然ながら、グリフォセート耐性を持つ「スーパー雑草」が数十種類生れた。これは、より安全な代替品として発売された以前の除草剤とグリフォセートの混合物を含む、より多くの使用と毒性が増した処方を必要とする。ダウ・ケミカルの「エンリスト」雑草管理システムは現在北アメリカで推進されているが、これは、ベトナム戦争時アメリカ軍がベトナムの食料と森林を破壊するために使用した、毒性副産物ダイオキシンを持つ枯葉剤の活性成分である毒性の強い2,4-Dをグリフォセートに加え、農薬処方に耐性を持つよう遺伝子操作された種子に基づいている。今年の1月、アメリカ農務省は、モンサントの遺伝子操作された綿花と大豆の新苗木を承認した。これらは、グリフォセートとジカンバの混合殺生物剤を使ってスーパー雑草に耐性を持つよう考案された遺伝子操作種子の製品である。除草剤が承認され次第、商業化される。モンサントと米農務省は、ジカンバの使用が大豆で500倍、綿花で14倍に増加すると推定する。ジカンバは、浮遊する傾向があり、対象以外の広葉植物(商業用作物を含む)や、それらに依存する花粉媒介昆虫を危険にさらす傾向がある事が十分立証されている。それは健康及び環境的健康のリスクと関係し、自身の抵抗雑草類を作った。

IACRの報書は、グリフォセートが散布時、空気中に検知され、水中、食品及び農業労働者の血中及び尿の中に吸収されている事を示していると言及している。またグリフォセートに暴露する労働者の様々なリスクの中で、非ホジキンリンパ腫(血液のがん)の危険の拡大、対外実験における哺乳類、人間及び動物のDNAと染色体の破壊に関するカナダ、スウェーデン及びアメリカでの証言が引用されている。これらすべて、新しい情報ではない。何十年も前から独立した研究でグリフォセートの遍在性は確認されていて、雨水を含む淡水、都市住民の血液や尿、人間の母乳にも確認されている。独立した研究は、人体の健康に対するグリフォセートの悪影響と、さらに広範な毒性の可能性を指摘している。IACRはこの調査のほんの一部だけを引用している。WHOがこの調査の重要性を認識したことは新たな事実であり、より厳格な規制を要請する後押しとなる。

モンサントはIACRの報告書を「世界の規制当局が出した決定から劇的に逸脱する」として、直ちに非難した。しかし世界の規制当局は農薬産業によって長年牛耳られており、同産業は規制プロセスで繰り返し同じ報告書を提出している。規制当局は、「商業秘密」と言い、彼らの決定の根拠を示す情報開示を繰り返し拒否している。

例えばEUのグリフォセート認証は現在、再調査中である。審査報告更新の担当国ドイツは昨年、グリフォセート・タスクフォース(GTF)が準備した資料に基づいてリスク・アセスメント連邦研究所が記述した肯定評価を提出した。GTFは、ヨーロッパのグリフォセート登録更新を共同で提出するために、リソースと労力を出し合う企業連合である。複数のNGOが欧州食品安全機関とドイツの規制当局の双方にグリフォセートの長期的毒性に関する資料の開示を求めてきたが、全面的開示を命じた欧州裁判所による2013年の判決にも拘らず、一貫して拒否されている(欧州委員会は上訴した)。ドイツはこれらの非公開の報告書に基づいて、アメリカに追随しヨーロッパも許容可能なグリフォセートの曝露レベルを上げるよう勧告した。

毒性のある農薬を大量に使用する事は農薬に耐性を持つ雑草を作るだけでなく、毒性のある殺生物剤の処方と使用を拡大するランニングマシンに、食料システムと地球を益々固定してしまう。WHOの報告書が発表されてわずか数日後に、全米微生物学会の雑誌に、三大農薬のグリフォセート、2,4-D及びジカンバと、年間何千人もの人々を死傷させ、超工業化された食料システムを益々侵略する大腸菌トサルモネラ菌の二つの病原菌に対する抗生物質の耐性の向上との関連性に関する研究が発表された。農薬のラニングマシンとそのスーパー雑草は、抗生物質のランニングマシンと抗生物質に抵抗力を持つスーパー病原菌と関連している。

労働者と消費者の健康及び食料システム自体を危険に置く化学毒物に作物と農業労働者を晒さない、実績のある方法がある。農薬に依存する過剰集中型の単一栽培に代わるものに、複数栽培、混合農業、そして農薬を使わない害虫駆除のためのキャッチ・アンド・カバー作物を使う回転システムなどが挙げられる。

これらの方法は生物多様性を保ち、土壌を豊かにし、土と水を保全し、「ラウンドアップ」、「Xtend」及び「エンリスト」を大量に撒いた農場(及び農業労働者)より、単位当たりより多くの食料を生産することができる。それらは特許権を有する知的著作権に依存しない。適切な支援で、社会的且つ環境的に持続可能な雇用を農村に創出できる。二つのプロジェクトが、食料の権利と食品労働者の権利を結び付けることでリンクされる。

「ラウンドアップ」に処方されたグリフォセートは特に、そのメーカーによって単に安全なだけでなく、(実際、農薬を必要としない)無耕農業のように、環境的にも有益だとして推進されてきた。WHOの報告書は業界の主張に異議を申立ており、IUFと他の団体が長年禁止を求めてきた毒性の高い除草剤パラコートに代わる安全な代替品としてグリフォセートを推進する動きに挑むために活用されるべきである。

WHOは農薬企業のロビー活動の圧力に耐えられるだろうか?それは市民の反応に大きく依存する。市民の反応は、欧米の環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)のような協定を通じて規制基準を低下させる動きを阻止する事にもなる。ヨーロッパ及びEUの双方におけるバイオテック/農薬のロビー活動は、汚染限界レベルを含む遺伝子操作要件を全て廃止するのにこの手段を利用しようとしている。グリフォセートに突然向けられた注目と、TTIPや同様の貿易投資協定に含まれる食料安全に対する高まる脅威の認識が、根本的に食料システムを変革させるより広範な動きを触媒する手助けになる。組合はその運動の先頭に立つべきである。