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派遣会社とILO - 偽装広告の真相

17.07.15 Feature
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人材派遣会社は派遣労働の利点を使用者に説得する必要はない。彼らの成長を阻むものは政治的なもの、つまり法律と規制である。そこで人材派遣会社のグローバルなロビー組織であるCiettは、加盟企業の成長がILOのディーセントワーク課題を進展させると主張する。マンパワーやアデコ、ケリーなどがより多くの人を雇用すれば、ディーセントワークが増えると言うのだ。Ciettは派遣労働の拡大と正規労働の破壊に対する障害を後退させるために、彼らの取り組みに対してILOの承認を模索している。

これは巧妙な営業トークだが、使用者がILOの提言を無視しない限りうまくいかない。527日からローマで3日間開催された今年の世界雇用総会で、Ciettはこの主張をILOの課題で覆い隠そうと試みた。「ILOOECD及び雇用&募集産業は成長を目指し、労働市場の順応性の役割を強調」という副題のついた彼らの報道資料には、「世界中の労働市場専門家が経済の促進のため、労働市場改革の速やかな導入を政府に要請」と書かれていた。もっと明確に言えば、「専門家は経済成長と雇用創出を刺激するため、機敏で抵抗力のある労働市場の重要性を強調する。これは実際には、旧式の厳格さを取り除き、合法で柔軟な形態の労働に関する不当な規制を排除することを意味する」と言う事だ。

Ciettのアンマリー・マンツ会長は、「我々は特定のタイプの契約の既成概念を捨て、その代わりに使用者のニーズを支持しながら、労働市場で労働者の立場を如何に向上させるかに焦点を当てるべきです」と述べた。またハンス・リーントジェス副社長は、「我々は労働者、クライアント企業そして派遣会社の三者関係の利益をここで強調したいと思います」と付け加えた。

ローマの総会前、Ciettは、「変化する労働の性質」について書かれた、ILOが最近出版した「世界雇用と社会的展望」を歓迎し、暗黙にCiettを支持するかのように示唆した。

「変化する労働の性質」はこの30年、聞きなれた使用者の常とう句で、使用者は組合つぶし、正規雇用の破壊、そして可能な限り規制緩和してきた。それはグローバリゼーション、技術、貿易、変化するライフスタイルなどに対応した当然の成り行きとして示され、人材会社と使用者の役割が外されていれば理由は何でもよかった。そして労働者たちは、選択肢はなく、服従し、「適応」するしかないと告げられる。

ILOの出版物は確かに、「標準的な形態の雇用」と見なされてきた正規の直接雇用、ないがしろにされた大部分の労働力を一定期間供給してきた、これらの世界の各地の正規雇用の破壊について記述している。

2次世界大戦後の30年間は労働者が大幅に増加した時代だが、歴史的にみると例外的である。世界各地で非正規労働や「非標準」の形態の雇用、派遣労働や自営業が蔓延し続けると、富裕国における雇用の非正規化が増加し、「非標準」雇用が世界基準となった。ILOはこの変化を、貧困、不安定、排他および不平等の発生の増加と関連付ける。派遣労働の拡大を承認する記述はどこにも見当たらず、それどころか成長のための構図として労働市場のさらなる規制緩和の新自由主義方式の実施に注意するよう特記している。Ciettの広告は、誰もこの報告書を読まないという前提でのみ効果がある。

人材派遣会社(最近、「派遣」を省略し呼び方を人材会社と言い換えることが多い)は利用可能な労働者を拡充させ、市場シェアを増やしている。彼らの最終目標は、正規の直接労働者が一人もいない「ユーザー・エンタープライズ」である。しかし皮肉なことに彼らは自らを、「踏み石」として労働者を正規雇用に「移行する」ための不可欠な会社と売り込んでいる。

今年の2月、ILOは非標準的形態の雇用に関する専門家の三者会議を招集した。珍しくCiettの統計に依存せずILOが準備した背景レポートには、踏み石の仮説が数か国(デンマーク、オランダ及び米国)で確認されると述べられていた。

しかし派遣労働がさらに自由化され、派遣労働者の予備要員が増えれば、日本やスペインで長年見られるように、派遣労働で働き始めた労働者は正規雇用で働き始めた労働者よりも、労働人生の中で非標準労働と失業を繰り返すケースが多いことが示唆される。

この場合、派遣労働は踏み石ではなくなる。踏み石という前提は、派遣労働者がこの特定のタイプの関係に留まったり、「回転率」の増加に直面するドイツ、スウェーデン、アメリカの一部の派遣労働者のケースでは確認されない。

全ての国の検証で踏み石メカニズムが機能しているところでさえ、非標準的労働者は失業や不活動に陥る確率がはるかに高く、時には正規労働者と比べ10倍近くの比率になることもある。Ciettが特定の形態の契約の問題に背を向ける理由はここにある。

さらに派遣労働を自由化し予備要員を増加させることが、まさに派遣会社の狙いである。この立場を支持する記述は、ILOの最近の調査結果には見当たらない。ILOは雇用形態に関係なく、全ての労働者の有効な保護を要請している。彼らは現状を容認も、また同様な事を要求してもいない。

ILOの報告書は、グローバルな生産活動の中で賃金への配分が停滞或いは低下している悪循環に関連して、回復を遅らせている主要要因として企業の投資不足を特定している。派遣会社ではなく、投資が雇用を創出する。企業の投資不足の唯一の対抗手段は大規模な公的投資しかないとこの報告書で結論を出すこともできただろうが、組合はこの論点を広範な課題の一部として追求し、闘う必要がある。ILOは派遣労働が社会的な危険要因であることを裏付けるのに十分な資料を提示している。それは職場の他の危険を削減するのに用いられる危険の優先度に応じたアプローチを通じて取り組むべきである。最初の選択肢は排除、そして危険を置き換えた後、潜在的毒性を抑制する厳格な管理を行う。