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略奪、利益及びプライベート・エクイティ:トロイの木馬と規制の今後

16.11.15 Editorial
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Trojanhorse_0古代ギリシャ神話にトロイ戦争の物語があるが、それによるとギリシャ兵士たちは巨大な木馬に隠れて10年間包囲されていたトロイ市を打ち負かした。不用心なトロイ人はこの木馬を贈り物と思い町の中に運んできたが、ギリシャ兵士たちがそこから飛び出し、町を略奪し廃墟にしてしまった。ルクセンブルグ裁判所は、大手プライベート・エクイティ・ファンドApaxTPGによるギリシャの携帯電話会社の略奪疑惑が不正な手段で実施された金融版トロイの木馬かどうかを、もうじき決定する。

 

この決定は、来年アメリカの裁判所で行なわれる同じ債権者による民事訴訟に対し、おそらく影響を与えるだろう。しかし同時にそれは、連続的「救済」で枯渇したギリシャ経済の周りを飛び回る金融ハゲワシが何をもたらすかの警告も果たす。そしてレバレッジド・バイアウトのバブルの可能性を視野に、プライベート・エクイティ投資家による「資産の剥奪」に対する見せかけのセーフガードである欧州ヘッジファンド規制(AIFMD)を、改めて見直すべきである。

 

2005年、大手プライベート・エクイティApaxTPGは、債務が少なく収益の高かったギリシャの携帯電話会社TIM ヘラスを買収したが、その資金の80%は借金で賄われた。ヘラスはその後、別の携帯会社と統合され、WINDヘラスと改名されルクセンブルグに置かれた。

 

エコノミスト誌によれば、要求する発注者次第で債務あるいは株式のどちらでも予約できる「ハイブリッド」式の「転換可能優先出資証明書(CPEC)」と呼ばれる新型債務手段で発行することで、1年以内に新会社の債務負担は15倍にも増加した。同ファンドは、借り入れで発行されたCPECを買い戻すことで当初の株式投資を早急に取戻し、借金まみれの会社を新たなオーナーに売却しようとした。しかし買い手が見つからないため、彼らは発行時の価値の35倍でCPECを買い戻すことで現金の引き出しを増やした。エコノミスト誌は、この2つのファンドは18か月間で彼らの当初の株式投資の20倍以上を引き出したと報告している。

 

2007年、WINDヘラスは2005年買収時のほぼ150%増の34億ユーロでエジプトの投資家に売却された。当然、2年後この新オーナーは倒産を宣告した。訴訟における債務者たちは、疑惑のCPEC詐欺が同社から97,400万ユーロを搾取し、「プロジェクト・トロイ」と言うコードネームのファンドの運営は「TIMヘラスとQ-テレコムに財政的に侵入し、その後彼らの資産を組織的に略奪し、そこから借金を重ね株主に大きな配当を出すよう設計された最新鋭のトロイの木馬」だったと主張した。インデペンド紙は、訴訟の債務者の一人(SPQRキャピタルのベルトランド・デス・パリエレス)が「引当金のない会社から10億ユーロを抜き出すなどできない。そんな事をしたら、会社の大規模な略奪へのドアを開ける事になる」と発言したと記載した。プライベート・エクイティ・ファンドは不正行為を否定しているが、裁判で決定される。

 

WINDヘラスの一件は、リーマン・ブラザースの倒産が引き起こした世界金融危機の直前のレバレッジド買収バブルの絶頂期に起こった。プライベート・エクイティ・ファンドは金融暴落以降、不動産や金融市場で活動を広げ、買収以外に幅広く多角化した。彼らはホテル不動産の世界最大のオーナーである。世界最大のビール会社AB INBevはサブミラーの買収でさらに大きくなるが、ブラジルのプライベート・エクイティ・ファンド3Gがオーナーである。3Gはウォーレン・バッフェット氏のバークシャー・ハザウェイとチームを組み、食品メーカー、ハインツの280億ドルの買収を、債務で資金調達し実施した。ハインツはそれ以降、世界全体で25%以上の労働者を解雇した。いろんな側面で、以前の買収企業は新たな金融複合企業になっている。

 

ルクセンブルグの裁判所は、ヘラスの金融蛮行疑惑を税制の側面からのみ調査する。だが欧州ヘッジファンド規制2011AIFMDの資産剥奪条項にも照らし合わせて見るべきだ。なぜならこの規制は原則上、プライベート・エクイティ・ファンドやファンドが非上場企業を買収或いは実行支配に入ってから2年間は、ApaxTPGWINDヘラスに対し行ったような事を禁じている。しかしこの規制は事実上効果なしと言えるほど、非常に多くの例外や抜け穴が盛り込まれている。実際、原文に1,700ヵ所も修正が掛けられた。例えば買収された企業は欧州圏内で登記されない限り、このルールは適用されない。また正式な制約を回避するため、債務で調達された株主への配当をブランド変更させる多数の方法があり、ファンドがそのやり方をインターネットでたくさんアドバイスしている。

 

リーマン・ブラザースの金融危機後、買収取引の規模は縮小したが、一部の取引におけるレバレッジの割合は2007年以前の水準に戻り、また買収された企業のバランスシートに新たな債務を重ねることで、プライベート・エクイティのオーナーたちにキャッシュを放出するために使われる巧妙な債務手段も戻ってきている。

 

2013年に施行された欧州ヘッジファンド規制は、2017年に自動的に見直されることになっているが、ヨーロッパで公式なレビューを開始し、危機が引き金にならなかった北米での討論を開始するのを、それまで待つ必要な全くない。現在プライベート・エクイティの批判的な協議は、ビジネスモデルではなく手数料に集中している。この作業は民主主義に脅威を与えるTTIPCETA及びTISAの潜在的影響から見て一層緊急性が高く、債務バブルと不審な金融「商品」を抑制するための今後の努力を低下させるだろう。金融略奪への扉は大きく開いたままである。