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合成生物学:極地に達する遺伝子操作

11.06.14 Editorial
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遺伝子操作された作物がフードチェーンに入ってきてこの20年、農業資源や生物多様性、及び労働者と消費者の生活と安全衛生を脅かす、一連の未規制の新たな技術が急速に商業化されている。これらも遺伝子組み換え種子のように、すでに世界の食料制度を席巻する企業の集約化のプロセスを加速させるだろう。それには以下が含まれる:①食料制度の提供、農薬、加工及び包装への商業ナノ技術応用の拡散、②合成生物学の急速な商業開発:以前は工場で作られていた材料の生産に工業技術を活用する究極な形態の遺伝子操作、③農家に購買を強制するため毎回植え付けの度に企業に完全に依存しなければならい「ターミネーター」のような遺伝子操作された新種の不稔種子。


IUFが長年協力してきた市民社会団体ETCグループ(元RAFI)によるこれらの新技術とその影響に関する一連の記事の初回を発行する。次回以降の記事ではナノテクノロジーと種子生産の新たな時代の影響について述べる。

 ちょうど20年前、遺伝子組み換え食品がはじめて商業用として使われるようになり、大きな論議や貿易闘争、そして世界中の農民、消費者及び労働者の抵抗を巻き起こした。現在、バイオテック産業は、人工有機体を生産する新たなハイテク手段である「究極の遺伝子操作」あるいは「GMO2.0 」と異名を取る、彼らが「合成生物学」と呼ぶ技術基盤で、食料制度に対し第2段の攻撃を呈している。この新しいアプローチの最初のターゲットは、バニラ、サフラン、ステビア、カカオ、ゴム、ココナッツ及び天然食品香味料を生産する熱帯地域の農家である。

産業機械が生命の一部をゼロから作れるようになった現在、合成生物学はこのプロセスを標準化・自動化させる。DNA合成機と呼ばれるデスクトップサイズの機械が、いわゆる生命の指示コードであるDNAのらせん構造を仕様に合わせて印刷できる。これらはイースト菌やバクテリア或いは藻類に入れられ、微生物に発酵タンクの中で価値のある混合物を生産するよう指示する。現在、合成生物学者の拡大する産業は、生きている細胞をハイジャックし、ミニチュア工場に変換させる遺伝子「プログラム」を創造している。投資家は合成生物学を次期の巨大「技術」ブームと見ているが、ウェブサイトやスマートフォンのプログラミングと違って、バイオエンジニアがプログラミングするのは食品、化粧品、香味料及び香料などを作る生物形態である。

スイスの合成生物学企業エヴォルヴァは、この新たな高まりを実証している。エヴォルヴァはビール醸造所のイースト菌を再操作し、ビールを醸造する代わりに、バニラの主な香味料化合物であるヴァニリンを製造する。またエヴォルヴァは、サフランの主要化合物を生産するイースト菌と、通常ステビアという植物から抽出される天然甘味料のステオビシドを生産するイースト菌を再操作した。それぞれのケースで、イースト菌は目的とする化合物を発酵させるため砂糖のタンクに混ぜられる。合成生物ヴァニリンは今夏発売が開始され、アメリカに本社を置くインターナショナル・フレーバーズ・アンド・フラグランス(IFF)が販売する。サフランは数年以内に、そしてステビアの合成生物版は来年にも市場に出る予定である(おそらく最初はコカ・コーラの中)。

エヴォルヴァ社は、これ以外の合成生物原料でも大手香味料・香料会社と取引を予定している。彼らが合成生物学を使って生産に興味を持っている化合物の中に、チリ、高麗人参、カフェインがある。ソラザイム、アリリックス、アイソバイオニクスなどその他の合成生物学企業は、ココナッツオイル、カカオ・バター、グレープフルーツ及びオレンジオイルの代替品を製造中で、グレープフルーツ及びオレンジオイルはすでに市場に出回っている。

これらの開発は、とって替えられる製品を生産している農家やその地域社会に大きな疑問を投げかけている。例えばバニラは時間を要する生産・保存が難しい作物で、マダガスカルのバニラ農家はカカオ生産者のように、搾取的商品の長いチェーンで不利な立場にすでに置かれている。農家で栽培されるバニラはすでに科学的に製造されたヴァニリンと競合している。なぜなら、エヴォルヴァとIFFは完成製品に彼らのヴァニリンを「天然香味料」とラベル表示できるため(発酵は法的に「天然」プロセスである)、この人工的に操作されたヴァニリンは植物として育てられたバニラと直接競合する。サフランも収穫が難しい。イランのサフラン収穫労働者は1キロのサフランを手作業で摘出すのに40時間の労働を必要とする。しかしサフランは世界で最も価値のある原料でもあり、生産国にとっては外貨を稼ぐ重要な資源であり、これまで競合する人工版は存在しなかった。エヴォルヴァの合成生物サフランはこれを変え、各地のサフラン栽培者と収穫者の生計に影響を与えることになる。

遺伝子組み替え作物に関しても、合成生物学がフードチェーンにより浸透してくるにつれ多くの課題が浮上するだろう。環境及び食品の安全問題にこれから取り組む必要がある。世界第2位の香味料製造企業であるIFFは、人工香味料原料のジアセチルへの曝露により急激に肺を犯された労働者に対する何百万ドルもの損害賠償を求められている。ジアセチルは合成生物学の産物ではないが、香味料と原料の検査と規制が不十分である職場の惨状により、ジアセチルに曝露された結果生じる「ポップコーン肺」が野放しにされる可能性がある。遺伝子操作技術がそうであったように、合成生物学技術の独占所有権は、大手バイオテック及び食品企業の力をさらに確固たるものとするだろう。

これらの問題の幾つかは、生物学的多様性に関する国連条約(CBD)がこの分野の国際的な監視を確立させる協議をこの夏に開始するので、意見が述べられるだろう。すでにIUFを含む116組織が合成生物学の監視のための一連の原則に署名しており、それには人工的に操作された有機体の商業的及び環境的の発売の猶予期間の推進が含まれる。


 経済的、環境的及び安全衛生の影響を含む合成生物学に関する定期的な最新情報は Synbiowatchに掲載される。